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細胞について

投稿日:2019年2月26日 更新日:

ヘルス&ケアや健康を論じる場合や、栄養、栄養素、サプリメントの働きやそれらが摂取され、運搬され、代謝される経路や方法、生体を構成する様々な組織や器官の働きや仕組み、遺伝子やDNAなどの仕組みを理解するためにはヒトの生体の基本的構成単位である細胞に関する知識は不可欠です。高校生物の授業程度の内容ですので、理解できる範囲で飛ばし読みされればと思います。

はじめに

生物は細菌(バクテリア)および古細菌(アーキア)から構成され、DNAを保持するための明確な構造を持たず、細胞小器官も持たない原核生物とそれ以外の原生生物界、菌界、植物界および動物界から構成され、DNAを収める細胞核と細胞小器官をともに有する真核生物に分類することができ、また単細胞生物および発達・進化の結果としての多細胞生物とにも分類することができます。

細胞核の有無(DNAの保持状態)による分類 多細胞生物 単細胞生物
原核生物(明確な保持構造がなく、「細胞小器官」もない) 細菌
古細菌
真核生物(明確な保持構造「細胞核」があり、「細胞小器官」もある) 原生生物界
菌界
植物界 N/A
動物界

表1. 細胞による生物の分類

植物界および動物界に属するものはすべて多細胞生物であり、原生生物界、菌界および原核生物には多細胞生物と単細胞生物の両方が存在します。ヒトを含む多細胞生物について、細胞は「生物の最も基本的な構成単位」であると認められており、細胞を有することが生物の定義の一つであって、またそれ自体も生命体であるといえます。ウイルスや植物に感染するウイロイドは細胞を持たず代謝も行わず自己増殖もできないことから生物とはみなしません。

細胞は細胞内部の細胞質と細胞外を細胞膜により隔てられています。細胞内には解糖系・TCA回路(クレブス回路またはクエン酸回路とも呼ばれます。)などの代謝経路などを担い生命活動を恒常的に行う器官を持ち、自己再生と複製をするための遺伝情報とそれを発現させる機能が備わっています。

ヒトは有糸分裂を行う真核細胞(被核細胞・有核細胞)というDNAを包む明確な核を有する細胞で構成されており、細胞内(細胞質基質)にはオルガネラとも呼ばれる各種の細胞小器官が見られます。

細胞の材料 1 – 元素

細胞は約17種類の元素から構成されています。重量比64%の酸素Oは水や有機化合物の他に、呼吸で取り込んだ酸素ガスO2に含まれます。同18%の炭素Cは有機化合物の他に、呼吸で排出する二酸化炭素CO2中にも存在します。同10%の水素Hは水や有機化合物に使われます。同3%の窒素Nはアミノ酸や塩基の原料となります。ここまでの4種類は主要四元素と呼ばれます。これに続き、神経細胞や細胞調整に使われるカルシウムCa、染色体やリン酸として使われるリンP、ナトリウムNa、カリウムK、塩素Cl、マグネシウムMgなどが続き、さらに生体含有量が鉄以下の一般に微量元素と呼ばれる鉄Fe、亜鉛Zn、銅Cu、マンガンMn、ヨウ素I、モリブデンMo、セレンSe、クロムCr、コバルトCoなどがあります。

細胞の材料 2 – 分子

細胞に含まれる水以外の分子は主に糖質脂質タンパク質アミノ酸)・核酸の4種に分類されます。糖質では、五炭糖単糖のリボース(C5H10O5)がヌクレオチドの成分として重要となります。それ以上加水分解されない単糖であるグルコースはエネルギー源となり、単純多糖化すると植物ではデンプン、動物ではグリコーゲンとなってエネルギー貯蔵能を持っています。セルロースは植物細胞の構造を支え、多糖のグリコサミノグリカンは動物細胞の細胞外マトリックス細胞外基質とも呼ばれますが、通常英語のextracellular matrixの短縮形であるECMと呼ばれます。)に多く含まれます。ECMは細胞の外に存在する不溶性物質で種類としては線維状タンパク質構造タンパク質、多糖のグリコサミノグリカンがあります。ヒトを含む多細胞生物の場合、細胞外の空間を充填する物質であると同時に物理的な支持体の役割(たとえば軟骨)、細胞-基質接着における足場の役割(たとえばコラーゲンフィブロネクチン)を担います。植物の場合はセルロースが代表的なものです。ECMの中で細胞は安定した生存環境を得ているといえます。ヒトを含む脊椎動物に顕著なECMの成分はコラーゲンです。その他プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニンといった糖タンパク質(一部は細胞接着分子)があります。間質(ストローマ、基質とも呼ばれ、臓器に固有の細胞群(実質)に対しその間に入り込む結合組織などで血管神経、膠原線維、線維芽細胞などがこれに当たります。)にはI型コラーゲン、プロテオグリカン(パーシカン、デコリンなど)、フィブロネクチンなどが顕著です。軟骨を作るECMの主要成分はII型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)、ヒアルロン酸、リンクタンパク質などです。間質(結合組織)と上皮(実質)の間などで見られる基底膜にはIV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカンなど)、ラミニン、エンタクチンなどが見られます。脳の主要なECM成分はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、テネイシンなどの糖タンパク質などです。

不水溶性の脂質はグリセロールとのエステルである中性脂肪(グリセリン脂肪酸エステル)の形で存在し、エネルギー貯蔵の役目を持ちます。また、リン酸と結合した脂質であるホスファチジルコリンなどのリン脂質は細胞膜の主成分でもあります。

生体内においてタンパク質核酸は、直接に遺伝情報を持つため「情報高分子」と呼ばれます。酵素リボソームなど生体物質などに使われるタンパク質は、光学異性体L形に限られた20種類のアミノ酸がペプチド結合を重ね、高次構造を持ったさまざまな種類があります。ヌクレオチドnucleotideはヌクレオシドnucleosideにリン酸基が結合した物質で4文字の略号の組み合わせで表されます。1文字目(省略される場合もありその場合は3文字となります。)のr/dはリボヌクレオチド/デオキシリボヌクレオチドのいずれであるかを示します。2文字目は核酸塩基の種類を示しており2文字まででヌクレオシドの種類が確定します。

略号 ヌクレオチド ヌクレオシド
A アデニン adenine アデノシン adenosine
G グアニン guanine グアノシン guanosine
C シトシン cytosine シチジン cytidine
T チミン thymine 5-メチルウリジン 5-methyluridine
  チミンは通常RNAには現れません。
dT     チミジン thymidine
U ウラシル uracil ウリジン uridine
  ウラシルは通常DNAには現れません。
略号 意味
B Aではない
H Gではない
D Cではない
V TでもUでもない
N 区別なし

表2. ヌクレオチド/ヌクレオシドの種類

3文字目のM/D/Tは結合するリン酸基の数(Mono-1、Di-2、Tri-3)を示し、4文字目のPはリン酸塩(Phosphate)であることを示します。たとえば、デオキシシチジン三リン酸(ヌクレオチドである「シトシン」の名称にはそれを構成するヌクレオシド名である「シチジン」が使用されていることに注意してください。)はdCTPと略され、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)はdNTPと総称することができます。

核酸にはの1位に塩基が結びついたヌクレオシドを基礎に、糖の4位に結合したリン酸(ここまでの構造をヌクレオチドといいます。)を介したジエステル結合によって連続的に繋がった構造を持つDNAデオキシリボ核酸と、そこから転写されて作成されるヌクレオチド重合体であるRNAリボ核酸があります。DNAの糖は2-デオキシリボース、RNAの糖はリボースです。また塩基は、DNAではプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)およびピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の4種が、RNAではチミンに代わってピリミジン塩基のウラシル(U)を含む4種が使われます。

すべての細胞は生体膜である細胞膜で包まれており内部は生体物質を含む水溶液があり代謝の場となっています。リボソーム、細胞質といった共通の構成要素を持っており、細胞質は細胞膜で囲まれた部分である原形質のうち細胞核以外の部分を指し、細胞質基質の他、リボソームなどの細胞小器官、封入体を含みます。細胞質基質は半透明な液体であり、様々な細胞質の要素がその中に漂っており一般的な細胞の体積の約70%を占め、水、塩、低分子の有機化合物などからなります。細胞質はまた細胞骨格を形作るタンパク質繊維や水溶性タンパク質、リボソーム、プロテアソームなどの大きな構造などを含んでいます。プロテアソームはタンパク質の分解を行う巨大な酵素複合体でヒトを含む真核生物の細胞において細胞質および核内のいずれにも分布しています。ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する系はユビキチン-プロテアソームシステムと呼ばれ、細胞周期制御、免疫応答、シグナル伝達といった細胞中の様々な働きに関わる機構です。細胞質の内側の部分は顆粒を多く含み、比較的流動性に富んでいて、これを内質と呼び、外側の部分は外質と呼ばれます。封入体は細胞内含有物とも呼ばれ細胞質基質中に浮かぶ不溶性物質の集合体です。生物種や細胞の種類ごとに異なる種類の封入体が存在しており、グリコーゲンなどのエネルギー貯蔵物質の顆粒などがあります。特に広く見られるものとしては球状の液滴である脂質滴(油滴とも呼ばれ、脂肪酸やステロールなどの脂質とタンパク質の混合物で脂質の保存のために利用されます。)が挙げられます。脂質保存に特化した脂肪細胞では体積の多くを脂質滴が占めます。

動物の真核細胞の細胞膜動物の細胞膜画像をクリックすると拡大することができます。拡大画像を別のウィンドウで表示すると原寸画像が表示されます。著作権について-細胞膜

細胞膜は、細胞質を取り囲んでおり、細胞内の構成要素を細胞外の環境から物理的に分離しています。また、細胞膜は細胞骨格の足場となって細胞を形づくり、細胞外マトリックスや他の細胞に接着し、まとまって組織を形成します。菌類、細菌、ほとんどの古細菌、そして植物は細胞壁も持っており、細胞の機械的な支持を行うとともに、巨大な分子の侵入を防いでいます。細胞膜は形質膜とも呼ばれ、脂質二重層膜タンパク質が結合した構成をとっています。疎水性の脂肪酸に親水性のリンや糖が結び付いた分子が疎水基を向かい合わせてP面(Protoplasmic face、原形質面)を作り親水基が外側のE面(Extracellular face、細胞外面)を作って緩く並び所々に特定の機能を持つ膜タンパク質が挟まるように埋め込まれるかまたは結合して全体が流動しています。膜の脂質やタンパク質には多くの場合糖鎖が結合しており細胞表層は複雑な構造になっています。細胞膜の構成は固定されているのではなく、流動性や環境の変化のために常に変化しており、細胞の成長段階によっても変動します。特に、発生段階を通じてヒトの一次ニューロンの細胞膜中のコレステロールの量は変化しており、その変化が流動性に影響を与えています。細胞膜は三つのクラスの両親媒性の脂質であるリン脂質糖脂質ステロールを含みます。各成分の量は細胞種に依存しますが、ほとんどの場合でリン脂質が最も多く、細胞膜の総脂質の50%以上を占めることも多くあります。糖脂質はわずか2%程度と微量であり、残りはステロールです。真核細胞の大部分では、細胞膜の重量組成は脂質とタンパク質がおよそ半分ずつを占めています。リン脂質や糖脂質の脂肪鎖は、通常偶数の炭素原子を含んでいて、典型的には16個から20個の間であり、16または18炭素の脂肪酸が最も多くなっています。脂肪酸は飽和していることも不飽和であることもあり、二重結合はほとんど常に「シス」型です。脂肪鎖の長さや不飽和度は細胞膜の流動性に大きな影響を与え、不飽和の脂肪は曲がった構造となるため、脂肪酸が互いに密にパッキングすることがなく、膜の流動性が増加します。いくつかの生物は脂質の組成を変えることで細胞膜の流動性を調節する能力を持っており、恒流動性適応と呼ばれます。疎水的な尾部の非共有結合的な相互作用によって、膜全体は維持されていますが、構造はきわめて流動的で、どこかの地点に固定されているわけではありません。生理的条件下では、細胞膜中のリン脂質分子は液晶状態であり、これは、脂質分子は自由に拡散することができ、それらが存在している層に沿った方向へ迅速に拡散することを可能にしています。一方で、脂質二重層の細胞内側の層と外側の層の間でのリン脂質分子の交換は非常に時間がかかる過程であり、そのため脂質二重層の非対称性は維持されます。すべての脂質が迅速に拡散するわけではなく、コレステロールに富んだ微小ドメインが細胞膜には形成されています。また、脂質の一部は内在性膜タンパク質と直接的に接触しています。タンパク質構造に強固に結合しているものは境界脂質(輪状脂質)と呼ばれ、タンパク質複合体の一部として振る舞います。動物細胞では通常、コレステロールはさまざまな程度で細胞膜全体に分散しており、膜脂質の疎水性尾部の間の不定形の空間に位置して膜を硬化し強化しています。生体膜中のコレステロールの量は、個体、細胞種、そして個々の細胞間でも異なっていますが、コレステロールは動物の細胞膜の主要な構成要素であり、膜全体の流動性を調節しています。すなわち、コレステロールの濃度によって、細胞膜のさまざまな構成要素の運動の量が調節されています。高温では、コレステロールはリン脂質の脂肪鎖の運動を阻害し、低分子の膜透過性を低下させ、膜の流動性を低下させます。低温ではそれに応答してコレステロールの産生は上方調節されます。低温では、コレステロールは脂肪鎖同士の相互作用を阻害し、膜の流動性を維持する抗凍結剤として機能しており、コレステロールは、温暖な気候に暮らす動物よりも寒冷な気候の動物に多く存在します。コレステロールを持たない植物では、ステロール(フィトステロール)がコレステロールと同様に機能します。脂質小胞またはリポソームは、脂質二重層で取り囲まれたほぼ球形の袋状構造です。細胞膜は炭水化物も含んでおり、それらは主に糖タンパク質ですが、糖脂質(セレブロシドとガングリオシド)も含まれ、真核生物の細胞間認識に重要な役割を果たします。それらは細胞の表面に位置し、宿主細胞を認識して情報を共有しています。ほとんどの場合、細胞内部の膜では糖鎖修飾は起こらず、一般的には細胞膜の外側の表面が糖鎖修飾されています。ゴルジ体では糖鎖修飾が行われるため、末端から2番目の糖はガラクトース、末端の糖はシアル酸となります。シアル酸は負に帯電しており、電荷を持つ粒子に対する外部障壁となっています。細胞膜は多くのタンパク質を含んでおり、典型的には膜の体積の50%を占めています。これらのタンパク質は、さまざまな生物学的活性を担う重要なものです。膜タンパク質は、内在性タンパク質表在性タンパク質脂質アンカータンパク質という三つの主要なタンパク質で構成されます。

内在性膜タンパク質/膜貫通タンパク質:膜を貫通して存在し、親水的な細胞質ドメインを持ち細胞内の分子と相互作用します。疎水的な膜貫通ドメインは細胞膜の内部に存在し、親水的な細胞外ドメインが細胞外の分子と相互作用します。疎水的ドメインは、α-ヘリックスまたはβ-シートからなるタンパク質モチーフが1つまたは複数もしくはこれらの組み合わせによって構成されます。例としては、イオンチャネル、プロトンポンプ、Gタンパク質共役受容体などがあります。

脂質アンカー型タンパク質:1つまたは複数の脂質分子に共有結合しており、それらを細胞膜に疎水的に挿入することでタンパク質を固定しています。タンパク質自体は膜と必ずしも相互作用しているわけではありません。例にはGタンパク質が挙げられます。

表在性膜タンパク質:内在性膜タンパク質や、脂質二重層の周縁領域と相互作用しています。これらのタンパク質は生体膜と一時的な相互作用しか行わない傾向があり、いったん反応すると分子は解離し細胞質へ移動して機能を果たします。いくつかの酵素、ホルモンなどが例にあります。

上記の通り、両親媒性の内在性膜タンパク質には、イオンチャネル、プロトンポンプ、Gタンパク質共役受容体などが含まれます。イオンチャネルによって、ナトリウムNa、カリウムK、カルシウムCa、塩素Clなどの無機イオンの電気化学的な勾配に従った拡散が行われます。イオンチャネルの親水的な孔を通ってイオンは細胞膜を通過します。神経細胞などの細胞の電気的な挙動はイオンチャネルによって制御されています。プロトンポンプは脂質二重膜に埋め込まれたタンパク質のポンプであり、プロトンはアミノ酸の側鎖を次々に移動しながら膜を越えて移動します。このような電子の伝達やATPの産生にはプロトンポンプが用いられます。Gタンパク質共役受容体GPCRは、脂質二重膜を7回貫通する1本のポリペプチド鎖で、シグナル伝達物質(ホルモンや神経伝達物質)に応答します。Gタンパク質共役型受容体は細胞間シグナリングや、cAMPの産生の調節、イオンチャネルの調節などに用いられます。上述のとおり、さまざまなメカニズムで物質は膜へ組み込まれ、そして取り除かれます。細胞内の小胞の膜への融合(エキソサイトーシス)によって、小胞の内容物が排出されるだけでなく、小胞の膜の構成要素が細胞膜へと取り込まれます。また、膜は細胞外物質の周囲に陥入またはブレブと呼ばれる突起を形成し、くびれ切れて小胞となって(エンドサイトーシス)細胞外物質を細胞内に取り込みます(食作用や飲作用)。細胞膜が膜成分からなるチューブ状構造と連続しているとき、物質はチューブから膜へと連続的に引き込まれます。脂質部分は脂溶性物質のみの通過を許し、イオンを含む水溶性物質はチャネルと総称される特定の膜貫通タンパク質を経由して通過できます。キャリアと総称される特定の膜貫通タンパク質は二次性能動輸送を行い、水溶液の濃度勾配に基づき水溶性物質を低濃度側に輸送します。チャネルとキャリアはエネルギーを消費しないのに対しポンプと総称される特定の膜貫通タンパク質はエネルギーであるATPを消費して特定の物質を輸送します。細胞膜は外部環境に露出しており、細胞間コミュニケーションに重要な部位となっているため、さまざまな種類のタンパク質受容体や、抗原提示を行うタンパク質などが細胞膜の表面に存在します。膜タンパク質の機能には、細胞間の連絡、表面の認識、細胞骨格の連絡、シグナル伝達、酵素活性、膜を越えた物質輸送なども含まれ、細胞にとって重要な機能を担っています。膜タンパク質はいくつかの方法で膜へ挿入されており、たとえばN末端のアミノ酸の「シグナル配列」がタンパク質を小胞体へ向かわせ、そこで脂質二重層へ挿入されます。挿入されたタンパク質は小胞の中で最終目的地まで輸送され、そこで小胞は標的の膜と融合します。

輸送手段 物質 / 駆動力 / 装置
能動輸送 一次性能動輸送 イオン/ATP/ポンプ
二次性能動輸送 イオン/濃度勾配/キャリア
受動輸送 単純拡散(受動拡散) 溶解拡散 脂溶性物質/濃度勾配/脂質膜、脂質経路とも
制限拡散 細孔より小さな水溶性物質/濃度勾配/チャネル、細孔経路とも
促進拡散 グルコース・アミノ酸など細孔より大きな水溶性物質/濃度・確率/輸送体※輸送体を使うため飽和現象を生じます
ろ過 溶質・水/血圧/血管壁細孔
浸透 水/浸透圧/細胞膜
食作用 エンドサイトーシス 巨大細胞膜外物質の取り込み
排出 エキソサイトーシス 巨大細胞内物質の細胞外への排出

表3. 細胞膜輸送の種類

典型的な動物細胞と細胞小器官(オルガネラ)

細胞小体

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典型的な動物細胞の細胞小器官(オルガネラ)の各部の名称と構造、機能は次のとおりです。

核小体(仁)(Nucleolus):細胞核内に複数存在してrRNAの転写やリボソームの構築が行われます。細胞周期の進行する中で前期には消失して核分裂に備え、rDNAからの転写とともに再形成されます。細胞周期とは、一つの細胞二つの娘細胞を生み出す過程で起こる一連の事象およびその周期のことをいいます。細胞周期では、細胞が周期から逸脱または分裂を止めている休止期に当たる「静止/老化期」~細胞が成長し次のDNA合成の準備ができているかを確認する「Gap 1期」~DNAを複製する「合成期」~DNA合成から有糸分裂が起こるまでの間、細胞は成長を続け、次の「細胞分裂期」の準備ができているかを確認する「Gap 2期」(Gap 1期からGap 2期までを総じて「間期」といいます。)~細胞は成長を停止、分裂に集中しながら有糸分裂の途中完全な分裂の準備ができているかを確認する「細胞分裂期」のサイクルが繰り返されます。

細胞核(Nucleus):通常細胞内に一つあり細胞の遺伝情報の保存伝達を行います。核膜と呼ばれる二層の脂質二重膜によって細胞質基質と隔てられており、核内には遺伝情報であるDNAのほか、核タンパク質RNA(リボ核酸)が含まれており、DNAの遺伝情報は核でRNAに転写されます。細胞分裂時には、核内のDNAは凝集し、染色体と呼ばれる棒状の構造をとり、細胞分裂後の2つの細胞に分かれて移動します。このとき、核の表面は二重の核膜で包まれ、その後、それぞれの細胞では再び核が形成され、染色体が消失、DNAが核内に広がります。核内には、糸状に連なったDNA分子結合タンパク質が複合体を構成しながら散らばっており、クロマチン(chromatin)あるいは染色質と呼ばれます。

リボソーム(Ribosome):リボゾームとも呼ばれ、あらゆる生物の細胞内に存在する大きく複雑な構造体であり粗面小胞体(rER)に付着している膜結合リボソームと細胞質中に存在する遊離リボソームがあります。リボソームではmRNA(messenger RNA、伝令RNA)の遺伝情報を読み取ってタンパク質へと変換する機構である翻訳が行われます。大小2つのサブユニットからなりこれらは50種類以上のリボソームタンパクと3種類以上のrRNA(リボソームRNA)の複合体です。リボソームは一連のmRNAを読み取り、特定のアミノ酸を指定する核酸の3つの塩基配列(トリプレット)であるコドンに応じてtRNA(transfer RNA、転移RNA)に結び付いたアミノ酸からタンパク質をペプチド鎖として合成する反応を触媒します。小サブユニット(小-単量体)は暗号解読センターがありmRNAのコドンを逐一解読してtRNAと結合させる働きをします。大サブユニットにはペプチジル転移酵素センターがあり、アミノ酸同士の脱水縮合結合であるペプチド結合の形成に作用します。ペプチド結合形成の触媒作用は厳密に折り畳まれたrRNAが担っています。rRNAはリボソーム内部でコアを形成し、リボソームタンパク質は通常リボソーム表面に存在して折り畳まれたrRNAの隙間を埋めています。リボソームタンパク質の主な役割はRNAコアの安定化であり、この他に翻訳の開始・終結地点の決定、翻訳の制御・維持なども担っています。

小胞(Vesicle):細胞内にある膜に包まれた袋状の構造で、細胞中に物質を貯蔵したり、細胞内外に物質を輸送するために用いられます。代表的なものに、液胞リソソームがあります。小胞は、脂質膜の化学的な特性上、自然に形成されるミセル様の構造です。ミセルとは分子間力あるいはファンデルワールス力による多数の分子の集合体であり、典型的には界面活性剤などの分子内に親水性部分と疎水性(容脂性・親油性)部分を併せ持つ物質である両親媒性物質の水溶液ではある濃度以上で親水基を外側に向け、疎水基を内側に向けて数十から百数十分子が集まって会合コロイドの一種である会合体を作るようになりこの会合体をミセルと呼びます。ほとんどの小胞は何かしらの特化した機能を持っており、その機能は小胞内に含まれる物質によって異なります。小胞の機能としては、細胞での合成産物の貯蔵細胞外への物質輸送物質の消化などが挙げられます。小胞の膜の構造は細胞膜のそれと類似しているため、小胞は細胞膜と融合して小胞内物質を細胞外に放出することができます。また小胞は、細胞中で他の細胞小器官の膜と融合することもできるため、細胞内の別の器官にも物質輸送を行うことができます。小胞は、少なくとも1層のリン脂質二重層によって細胞質基質と区切られており、リン脂質二重層が1層である小胞は単層小胞、リン脂質二重層が2層以上である小胞は多層小胞と呼ばれます。小胞内部は細胞質基質と区切られているので、小胞内を細胞質基質と異なる環境にすることができ、そのため、小胞内を各種化学反応の場として利用し、様々な物質や酵素を合成することができます。

粗面小胞体(Rough endoplasmic reticulum、rER):リボソームが付着している小胞体の総称であり、粗面小胞体は核膜の外膜と連続しています。リボソーム中にはRNAが多く含まれるため、粗面小胞体は好塩基性に染色されます。分泌タンパク質膜タンパク質リソソーム酵素は粗面小胞体膜上の付着リボソームで合成されます。膵外分泌細胞、胃底腺主細胞、形質細胞、肥満細胞、神経細胞などのタンパク質合成が盛んな細胞でよく発達しています。分泌された物質はゴルジ体へ輸送されます。

ゴルジ装置ゴルジ体)(Golgi apparatus (or “Golgi body”)):ゴルジ装置ゴルジ複合体あるいは網状体とも呼ばれます。細胞外へ分泌されるタンパク質の糖鎖修飾やリボソームを構成するタンパク質のプロセシング機能を担います。ゴルジ体は偏平な袋状の膜構造であるゴルジ偏平嚢が一定の間隔で層を成して重なるようにして形成されますが、ゴルジ体の全体的な形態は多様です。膜系の枚数は、種子植物の場合は7枚であることが多く、その他の生物ではより多くの層からなっています。各膜胞の辺縁部やゴルジ体両面の層は網目状となっており、小胞体、核膜あるいは細胞膜といった他の膜系とつながっています。ゴルジ体の分布も様々であり、形態的にも多様ですが、多くの場合軽く湾曲して明確な背腹性を示しています。ゴルジ体は通常、核に近接して存在し、動物細胞では中心体付近に位置しています。またゴルジ体は小胞体と近接して存在することも多く、小胞体側の網目構造をシス・ゴルジ網(CGN)、反対側の面の網目構造をトランス・ゴルジ網(TGN)と呼びます。ゴルジ体の成層部分も小胞体側からシス嚢、中間嚢、トランス嚢の三つの部分に分類されます。ゴルジ体は、小胞体側にあたるシス側とその反対側であるトランス側とでは、膜タンパク質の酵素活性などいくつかの点で大きく異なり、その果たす役割もかなり明確に分かれています。ゴルジ体は細胞分裂時に、全体が一旦数百の小胞に分断され、細胞全域に均等に分布した後、分裂終了後に改めて集合、再構成されることが知られています。

ゴルジ小胞

ゴルジ体の各層・網間では、常にゴルジ小胞の生成(出芽)、交換と取り込み(融合)を繰り返しており、これを通じて各層間の物質の授受が行われています。同様の機序で周辺の細胞小器官との物質の授受(特に小胞体-CGN間)やTGNからの分泌小胞、分泌顆粒、リソソームおよびエンドソームの形成なども行っています。

小胞輸送

ゴルジ小胞の交換は小胞輸送と呼ばれ、小胞輸送の機能としては小胞体からゴルジ体を通じて細胞内外に分泌される方向が主で、通常の輸送経路と呼ばれます。分泌タンパク質などはこの小胞の内腔に取り込まれ、あるいは膜タンパク質として輸送されます。これと平行に逆方向の輸送を行う経路も存在し返送経路と呼ばれます。小胞体に存在するべきタンパク質(小胞体タンパク質)も通常の輸送経路によりゴルジ体へと移行しますが、ゴルジ体ではこれらのタンパク質に存在する小胞体保留シグナルを認識し、これをゴルジ小胞に集めて返送経路に乗せ、小胞体に返す働きをします。小胞体保留シグナルはシグナルペプチドの一種で、ペプチドのC末端に存在する-Lys-Asp-Glu-coo-あるいはこれに類似した配列でKDEL配列とも呼ばれます。実際には小胞体やCGNの膜タンパク質として存在するKDEL受容体により行われています。返送される小胞体タンパク質の中には結合タンパク質(BiP)と呼ばれるタンパク質があり、これはタンパク質としての畳み込みに問題があるペプチドを識別し結合する働きがあります。結果として小胞体からゴルジ体へと誤って輸送された未熟なタンパク質などを小胞体に送り返す機能を果たしています。なお、通常の輸送経路、返送経路はそれぞれ特定の物質により阻害されます。小胞の輸送には常時一定の速度で行われる構成的なバルク輸送と、外部からの刺激によって始まる調整的輸送があり、バルク輸送の速度は粗面小胞体にタンパク質を注入し、その半分の量が細胞外へ運び出される時間でおおむね1〜3時間程度ですが、ごく短いペプチドでは10分程度と速くなります。分泌小胞はバルク輸送に、分泌顆粒は調整的輸送の際に現れます。ゴルジ体の機能としては、分泌タンパク質や細胞外タンパク質の糖鎖修飾やリボゾームタンパク質のプロセシングなど、小胞体(粗面小胞体)により生産された各種前駆体タンパク質の化学的修飾を行うとともに、各々のタンパク質を分類し、分泌顆粒、リソソームあるいは細胞膜にそれぞれ振り分ける働きを持ちます。また、分泌顆粒そのものの生成も行い、細胞外へ分泌などを行います。また、これらの移送に伴い、脂質の輸送も行っているといわれています。各層のうち、CGNはリソソームタンパク質にある糖鎖のリン酸化、小胞体タンパク質の選別・回収機能を持ち、またTGNはタンパク質の選別の他、H+ポンプの機能を持っています。タンパク質の修飾については以下のものがあります。

  • 糖鎖の付加:小胞体から送られてきたタンパク質への糖鎖の付加について、付加は糖残基1つずつ行われ、2〜10個程度の付加が行われます。糖鎖の付加は、ある特定の機能を果たすために必要なものや、糖鎖を失うと正常な構造を維持できないものなども存在しますが、タンパク質表面に糖鎖を付加することで親水性を高めるのが目的ではないかと考えられています。
  • 脂質の付加:特に小腸においては、脂質をタンパク質に付加し、リポタンパク質の形に変換します。他の細胞への脂質輸送を行う際にも有用と考えられています。
  • 多糖類の合成:粘液の分泌の際に必要なムコ多糖類の合成を行います。
  • 低分子化合物の分泌:神経細胞において、カテコールアミンの分泌に関与します。
  • タンパク質の選別:細胞内外へと輸送されるタンパク質の選別は、主としてTGNにおいて行われています。

微小管(Cytoskeleton):微小管は、細胞中に見いだされる直径約25 nm(内径約15 nm)の中空の管状の構造であり、主にチューブリンと呼ばれるタンパク質からなる細胞骨格の一種です。細胞分裂の際に形成される分裂装置星状体紡錘体染色体をまとめてこう呼び、星状体・紡錘体は中心体と、微小管複合体そのものはその形態からこう呼ばれています。)の主体です。チューブリンにはα,β,γ,δなどの種類があることが知られていますが、微小管は主に、αチューブリンとβチューブリンが結合した二つの同種の分子やサブユニット(単量体)が物理的・化学的な力によってまとまった分子または超分子であるヘテロ二量体を基本単位として構成されます。α、βチューブリンからなるヘテロ二量体が繊維状につながったものをプロトフィラメントと呼び、これが螺旋の形で11-16本程度集まって管状の構造を取ったものが微小管に他なりません。細胞中に見いだされる微小管の主なものは13本のプロトフィラメントからなり、また、鞭毛繊毛にはダブレット、トリプレットと呼ばれる2本または3本の微小管が融合した構造も見いだされています。微小管には伸長の方向性があり、チューブリン二量体が付加しやすい側を+プラス、解離しやすい側をマイナスと呼びます(微小管はチューブリンの付加により伸長し、解離により短縮されます)。+端と-端では付加の速度が二倍程度違い、付加・解離の速度は遊離チューブリンの濃度によって決まり、高濃度の場合はいずれの端でも付加が起こります。濃度の低下とともにまず-端での付加が止まり、低濃度ではいずれの端でも解離が進みます。伸長と解離の速度が等しく、全体に平衡状態となる濃度を臨界濃度と呼びますが、微小管の見かけ上の長さが変化しない場合でも、常に+端での伸長と-端での短縮が起こっています。なお微小管+端においても臨界濃度以上の遊離チューブリンが存在していれば必ずしも伸長が続くというわけではなく、重合を続けていた微小管が突如急激な脱重合を起こすことがあります。この微小管の伸長と短縮は、微小管結合タンパク質によって様々に変化し、微小管を安定化するもの、微小管を切断するもの、微小管同士を結合するものなどがあります。微小管は、その-端を中心体に置き、重合の場である+端を細胞内の様々な領域に伸ばすことが多く起こり、中心体を構成する中心子自体、9対の三連微小管が環状に配置したもので、中心体にはγチューブリンが含まれ、このγチューブリンに結合する形で微小管が伸長します。細胞中の微小管の表面には微小管結合タンパク質(MAPs)と呼ばれるタンパク質が結合しており、これらの結合タンパク質の種類は神経細胞、鞭毛、繊毛、紡錘体など、組織や微小管の機能によって異なっており、微小管の機能を調節していると考えられています。チューブリンとこの微小管結合タンパク質の複合体を広義には微小管と呼んでいます。細胞分裂の際に形成される紡錘体、繊毛や鞭毛の主要な構造は複数の微小管の束からなり、染色体の移動や鞭毛打などの運動を司っています。微小管を足場(レール)とするモータータンパク質としてダイニンキネシンなどが知られており、これらのタンパク質は細胞の巨視的運動のみではなくタンパク質やmRNAといった分子の細胞内局在にも関与していますが、この場合の-端から+端に向けての輸送は順行性、+端から-端に向けての輸送は逆行性として区別されており、いずれの輸送も微小管系と細胞質中に存在するモータータンパク質群との相互作用によって起こります。順行性の輸送はキネシンが、逆行性の輸送にはダイニンが重要な役割を果たしているといわれています。コルヒチンやビンカアルカロイド系の抗がん剤は微小管の伸長を阻害しますが、タキサン系の抗がん剤は逆に解離を阻害し、微小管を極度に安定化します。微小管の重合を阻害する薬剤であるコルヒチンは紡錘糸の形成阻害を起こすことから、果樹では種無し(不稔)の果実を品種改良により作成する際に使用されています。

細胞骨格(CSK)は細胞質内に存在する、細胞の形態を維持し、細胞内外の運動に必要な物理的力を発生させる細胞内の繊維状構造です。細胞内での各種膜系の変形・移動と細胞小器官の配置、また、細胞分裂、筋収縮、繊毛運動などの際に起こる細胞自身の変形を行う重要な細胞小器官です。細胞骨格はすべての細胞に存在します。真核生物の細胞には主に3種類の細胞骨格があり、各々アクチンフィラメント、中間径フィラメント、微小管と呼ばれ、細胞に構造と形態を与えます。

アクチンフィラメントはマイクロフィラメントとも呼ばれ、その直径は5〜9 nmです。二つのアクチン鎖が縒り合わさって構成されています。アクチンフィラメントのほとんどは細胞膜の直下に集中しており、張力に抵抗する、細胞の形を保つ、仮足や微絨毛などの細胞質突起を形成する、細胞間や細胞-基質間の接合に関わるなどの役割を果たしています。接合機能に関しては、アクチンフィラメントはシグナル伝達に必須でもあります。これらは細胞質分裂、特に分裂溝生成時には重要な役割を果たし、またミオシンと協同して横紋筋を作ります。アクチン/ミオシン共同体は、ほとんどの細胞で細胞質流動を作り出しています。

中間径フィラメントは中間フィラメントあるいは10 nmフィラメントとも呼ばれ、直径8〜12 nm、アクチンフィラメントよりも丈夫な細胞質中の複数種の構成要素です。アクチンフィラメントと同様に、張力に抵抗することによって細胞の形態を保つ働きがあります(微小管はこれと対照的に、圧力に抵抗します。アクチンフィラメントと中間径フィラメントは鉄筋コンクリートに当たり、微小管は鉄骨に当たると考えると判りやすいでしょう)。中間径フィラメントは、細胞内部の3次元構造を構成し、オルガネラを固定し、また細胞間や細胞-基質間接合にも関わります。中間径フィラメントには、以下のようなものがあります。

  • ビメンチンからなるもの:多くの細胞で共通に見られます。
  • ケラチンからなるもの:内胚葉および外胚葉のあらゆる上皮細胞に存在し、陸上脊椎動物の皮膚細胞、髪や爪の細胞では角質化を担います。
  • ニューロフィラメント:神経細胞に存在します。
  • ラミンからなるもの:核膜を形成します。

滑面小胞体(Smooth endoplasmic reticulum、sER):リボソームが付着していない小胞体の総称であり、通常細管上の網目構造をとります。粗面小胞体とゴルジ複合体シス網との移行領域、粗面小胞体との連続部位に存在します。トリグリセリド、コレステロール、ステロイドホルモンなど脂質成分の合成やCa2+の貯蔵などを行います。ステロイド産生細胞、肝細胞、骨格筋や心筋、胃底腺壁細胞、精巣上体の上皮細胞で多く存在します。

ミトコンドリア(Mitochondrion):ミトコンドリア(mitochondrion、複数形mitochondria)は糸粒体とも呼ばれ、二重の生体膜からなり、独自のDNA(ミトコンドリアDNAmtDNA)を持ち、自ら分裂して増殖します。mtDNAはATP合成以外の生命現象にも関与しており、酸素呼吸好気呼吸)の場として知られている他、多細胞生物を構成する細胞が個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされるプログラムされた細胞死であるアポトーシスにおいても重要な役割を担っています。mtDNAとその遺伝子産物は一部が細胞表面にも局在し、突然変異を自然免疫系が特異的に排除しています。ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞に数百、数千個のミトコンドリアが存在し細胞質の約40%を占めています。平均では1細胞中に300~400個のミトコンドリアが存在し、全身で体重の10%を占めています。ミトコンドリアの形状は生物や細胞の置かれている条件によって多様であり、球形、円筒形のものから紐状あるいは網目状のものまであります。1細胞あたりの数は、1つに維持されている細胞もありますが、多い場合では数千個のミトコンドリアが絶えず分裂と融合を繰り返しているものもあります。ミトコンドリアは外膜内膜という二枚の脂質膜に囲まれており、内膜に囲まれた内側をマトリックス、内膜と外膜に挟まれた空間を膜間腔と呼びます。内膜はマトリックスに向かって陥入し、クリステ(稜)と呼ばれる特徴的な構造を取ります。外膜の生化学的な組成は細胞膜と同様にタンパク質とリン脂質の重量比がおよそ1:1となっており、ポリンという膜タンパク質が大量にあり、分子量5000以下の分子が自由に透過できるようなチャネルを形成しており、これより大きなタンパク質は自由に出入りすることはなく、ペプチド配列中に移行シグナルが存在している場合にのみ細胞質側から取り込まれます。外膜は小胞体膜と物理的に関係してカルシウムシグナル伝達脂質交換を行っています。膜間腔はミトコンドリアの外膜と内膜に挟まれた空間で、外膜が低分子を自由に透過させる性質であるため、イオンや糖などの組成・濃度は細胞質と同等になっています。その一方でタンパク質の組成は細胞質とは異なっており、外膜が破壊されて膜間腔に存在するシトクロムcなどのタンパク質が細胞質へと漏れ出すとアポトーシスが引き起こされます。内膜はミトコンドリアの機能的アイデンティティを担っており、酸化的リン酸化に関わる呼吸鎖複合体などの酵素群が規則的に配列しています。外膜とは対照的に基本的には不透性で、内外で物質を輸送するためにはそれぞれの物質に対して特異的な輸送体を必要とします。呼吸鎖複合体は内膜をまたぐようにプロトン勾配を形成し、それによって生じる膜電位が物質輸送ATP合成に関与しているほか、マトリックスへのタンパク質輸送装置やミトコンドリアの分裂・融合に関わるタンパク質群などが存在し、ミトコンドリアを構成する全タンパク質のおよそ2割(150以上)が含まれています。タンパク質とリン脂質の重量比は3:1ほどです。一般的に内膜は内側へ向かって陥入し、クリステと呼ばれる構造をつくります。これによって内膜の表面積、ひいてはATP合成能の増大に寄与しています。外膜と内膜の表面積の比は細胞のATP需要と相関しており、肝臓では5倍ほど、筋細胞ではさらに大きな値となっています。クリステの形状は生物によって様々であり、多細胞動物や陸上植物ではミトコンドリアの長軸に直交する平板状をしており、教科書などを通じて広く知られている形状ですが、しかしこれはむしろ特殊なものであり、真核生物全体を見渡すと管状のものが一般的です。内膜に囲まれた内側であるマトリックスには、TCA回路クレブス回路またはクエン酸回路とも呼ばれます。)やβ酸化などミトコンドリアの代謝機能に関わる酵素群が数多く存在する他、mtDNAも含まれており、ミトコンドリア独自の遺伝情報が保持されています。その遺伝子発現を担うために、リボソームtRNA転写因子翻訳因子なども存在しています。マトリックスには、ミトコンドリア全タンパク質の6〜7割が存在しており、非常にタンパク質濃度の高い区画となっています。ミトコンドリアの主要な機能は電子伝達系による酸化的リン酸化によるATPの産生(ADPのリン酸化)であり、細胞のさまざまな活動に必要なエネルギーのほとんどは、直接、あるいは間接的にミトコンドリアからATPの形で供給されます。しかしそれ以外にも多様な機能を持っており、ステロイドやヘムの合成などを含む様々な代謝、カルシウムや鉄の細胞内濃度の調節、細胞周期やアポトーシスの調節などにも大きく関わっているとされています。ただしすべてのミトコンドリアがそれらのすべての機能を担っている訳ではなく、あるものはある特定の細胞でのみ機能しています。こうした様々な機能には多数の遺伝子が関わっています。ATP産生はミトコンドリアの主たる機能であって、これに関わる多くのタンパク質が内膜やマトリックスに存在しています。細胞質には解糖系があり、グルコースを代謝することでピルビン酸と還元型電子伝達体であるNADHを生じます。もし酸素が十分に存在しない場合には解糖系の産物は嫌気呼吸により代謝されますが、しかしミトコンドリアで酸素を用いてこれらを酸化する好気呼吸を行うことで、嫌気呼吸と比べてはるかに効率よくATPを得ることができます。嫌気性分解では1分子のグルコースから2分子のATPしか得られないのに対し、ミトコンドリアによる好気性分解によって、1分子のグルコースから38分子のATPが合成できるようになります。ピルビン酸だけでなく、脂肪酸を利用(β酸化)することもできます。全ての生物で解糖系はその反応が細胞質基質で起こります。これは解糖系が細胞内小器官が発生する以前から存在する最も原始的な代謝系であることを反映していると考えられています。真核生物では、解糖系で得られた物質(ピルビン酸とNADH)をTCA回路や電子伝達系の反応がおこるミトコンドリアに輸送し、好気呼吸を行います。細胞質の解糖系で生成されたピルビン酸はピルビン酸共輸送体(ピルビン酸/H+)により細胞質からミトコンドリアへ輸送され、同じく細胞質で生成されたNADHはリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルによりミトコンドリアへ実質的に輸送される他、ADPはATP/ADPトランスポーターにより細胞質からミトコンドリアへ輸送されます。なお、H2O、酸素O2炭酸ガスCO2アンモニアNH3に限ってはミトコンドリア内膜をそのまま通過することができます。アセチルCoAは、好気性細胞呼吸の第二段階であるピルビン酸がピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体により脱炭酸して生成され、これをピルビン酸の脱炭酸過程と呼びます。この酵素反応はミトコンドリアのマトリックスで起こり、ここで生成したアセチルCoAはTCA回路に参加することになります。TCA回路に入るまでに、解糖系で生じたピルビン酸は内膜を能動輸送によって透過し、マトリックスで酸化され補酵素A(CoA)と結合し、二酸化炭素アセチルCoANADHを生じます。アセチルCoAはTCA回路へ入る基質であり、TCA回路の酵素群はほとんどがマトリックスに存在していますが、コハク酸デヒドロゲナーゼ(ユビキノン)だけは例外で内膜の呼吸鎖複合体IIとなっています。TCA回路はアセチルCoAを酸化して二酸化炭素を生じ、その過程で3分子のNADHと1分子のFADH2、1分子のグアノシン三リン酸GTPを生成します。生成された二酸化炭素はミトコンドリア外に排出されます。TCA回路のサイクルでは、サイクルの一回転ごとにすべての中間体(例えば、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸およびオキサロ酢酸)が再生されるため、ミトコンドリアにこれらの中間体のいずれかを追加して加えることは、追加された量がTCA回路のサイクル内に保持され、中間体の一つが他方に変換されて順次増加することを意味します。それらの中間体のいずれか1つをTCA回路のサイクルに加えることは、補充反応(アナプレロティック反応)効果を示し、中間体のいずれかの除去は消費反応(カタプレロティック反応)効果を示すことになります。これらの補充反応及び消費反応は、TCA回路のサイクルの回転でアセチルCoAと結合してクエン酸を形成するために利用可能なオキサロ酢酸の量を増加または減少させます。この回転量がミトコンドリアによるATP製造量と細胞へのATPの提供量の増減を左右することになります。NADHやFADH2のもつ還元力は、内膜にある電子伝達系で数段階を経て酸素に渡されます。これら高エネルギー分子は、マトリックスのTCA回路からだけでなく、細胞質の解糖系からも生じます。細胞質で生じた還元等量はマロン酸-アスパラギン酸対向輸送系リン酸グリセロールシャトル系を通じて電子伝達系に供給されます。内膜の電子伝達系には、NADH脱水素酵素、シトクロームc還元酵素、シトクロームc酸化酵素が存在しており、プロトン(H+)を膜間腔へ汲み出します。この過程は非常に効率的ですが、不十分な反応により活性酸素種ROS)を生じさせることがあります。これはいわゆる酸化ストレスであり、ミトコンドリアの機能低下老化に関与していると考えられています。グルコーストランスポーターであるGLUT1を介してデヒドロアスコルビン酸がミトコンドリアに輸送され、その後ビタミンCに還元され、活性酸素によるフリーラジカルの大部分が生成される場所であるミトコンドリアに蓄積されますが、アスコルビン酸(ビタミンC)は、ミトコンドリアのゲノムと膜を保護しています。プロトンが膜間腔へ汲み出されることにより、内膜の内外でプロトン濃度の差(プロトン勾配あるいは電気化学的勾配)が生じます。汲み出されたプロトンはATP合成酵素を通じてマトリックスへ戻ることができ、このときにそのポテンシャルを使ってADPと無機リン酸(Pi)からATPを生成します。生成されたATPはATP/ADPトランスポーターによりミトコンドリアから細胞質へ輸送され細胞の活動エネルギー源となります。生物がエネルギーを取り出すために利用する脂肪酸グリセロールは、脂肪細胞に貯蔵されたトリアシルグリセロールなどのエステルから得ています。トリアシルグリセロールは細胞中に脂質滴として凝集しているため、細胞質の浸透圧を上げることなく存在でき、また水和もされず、また同じ質量のタンパク質や糖質の2倍以上の完全酸化エネルギー(有機物を二酸化炭素と水まで酸化したときに得られるエネルギー)を持っています。このようにエネルギー貯蔵物質としては極めて優れていますが、その水に対する極端な不溶性は酵素によって代謝される際に障害となり、脂質滴のトリアシルグリセロールをエネルギー生産のために各組織(骨格筋、心臓、腎皮質など)に運ぶ際は次の手順が踏まれます。

  1. ホルモン感受性リパーゼが脂質滴の表面に移動する。
  2. リパーゼによりトリアシルグリセロールが加水分解され、脂肪酸が遊離する(リン脂質はホスホリパーゼにより加水分解される)。
  3. 血液中に出た脂肪酸が、可溶性タンパク質である血清アルブミンと結合し、不溶性が打ち消される。
  4. 血流に乗って筋組織などに運ばれ、血清アルブミンから遊離した脂肪酸が脂肪酸トランスポーターから細胞内に取り込まれる。

このように各細胞に取り込まれた後、脂肪酸の活性化、β酸化を経て、脂肪酸アシル鎖のカルボキシ末端から2炭素がアセチルCoAとして分離して、アセチルCoAが生成されます。細胞内に取り込まれた脂肪酸は、その安定なC-C結合を克服するため、ミトコンドリア外膜の細胞質側に存在する酵素アシルCoAシンテターゼにより触媒され、次の反応によって活性化されます。

脂肪酸+CoA+ATP⇄脂肪酸アシルCoA+AMP+PPi

アシルCoAシンテターゼ(アシルCoAデヒドロゲナーゼ、エノイルCoAヒドラターゼ、3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ、β-ケトアシルCoAチオラーゼとともにβ酸化酵素群を構成します。)は脂肪酸チオキナーゼとも呼ばれます。この反応は2つのステップで起こり、まず脂肪酸のカルボン酸イオンがATPのリン酸(β、γリン酸)と置換することで脂肪酸アシルアデニル酸とピロリン酸(PPi)が生成します。次に補酵素A(CoA)のチオール基がアシル基の炭素を求核攻撃し、脂肪酸アシルCoAとAMPを生成します。脂肪酸アシルCoAは高エネルギー化合物の一種です。生成した脂肪酸アシルCoAはミトコンドリア内膜に運搬され、β酸化を受けるか、若しくは細胞質ゾルでの膜脂質の合成に利用されます。ミトコンドリア内膜はアシルCoAを直接透過しないため、カルニチン(膜中に保持される補因子様物質)が脂肪酸アシル運搬体の役割を果たします。脂肪酸アシルCoAはカルニチンと一時的に結合し、脂肪酸アシルカルニチンを生成します。この反応はミトコンドリア外膜に埋め込まれたカルニチンアシルトランスフェラーゼ Iにより触媒されます。脂肪酸アシルカルニチンは膜間スペースで生成される場合と外膜の細胞質ゾル側で生成する場合が考えられますが、今のところどちらの機構であるのかよく分かっていません。脂肪酸アシルカルニチンはアシルカルニチン/カルニチントランスポーターを介する促進拡散により内膜を通過し、マトリックス内に移行します。そして脂肪酸アシル基が内面に局在する酵素カルニチンアシルトランスフェラーゼ IIの触媒により、カルニチンからミトコンドリア内に存在する補酵素A(CoA)に転移されることで、脂肪酸アシルCoAが再生します。遊離カルニチンはアシルカルニチン/カルニチントランスポーターを介して再び膜間スペースへと移動します。このような脂肪酸アシルCoAの輸送系をカルニチンシャトルといいます。ミトコンドリア内に入った脂肪酸アシルCoAはマトリックス内の酵素によって酸化を受けることになります。β酸化とは脂肪酸の代謝において脂肪酸を酸化して脂肪酸とCoA(補酵素A)のチオエステルである脂肪酸アシルCoAを生成し、そこからアセチルCoAを取り出す代謝経路のことをいいます。β酸化反応は4段階の反応の繰り返しからなり、一順するごとにアセチルCoAが1分子生成され、最終生産物もアセチルCoAとなります。脂肪酸アシルCoAのβ位において段階的な酸化が行われることからβ酸化と名付けられています。β酸化は脂肪酸の代謝の三つのステージ(β酸化TCA回路(クエン酸回路)、電子伝達系)の最初の一つであり、生成されたアセチルCoAはTCA回路に送られ、CO2へと酸化されます。動物細胞では脂肪酸からエネルギーを取り出すための重要な代謝経路でもあります。植物細胞においては発芽中の種子の中で主に見られます。β酸化酵素群の働きは「FADによる酸化」(β酸化酵素アシルCoAデヒドロゲナーゼ、補酵素としてのFAD(TCA回路ではFADは補欠分子族として振る舞います。)、FADが還元されることで解離した電子は電子伝達フラビンタンパク質(ETF)と呼ばれる水溶性のタンパク質に結合した別のFADが捕捉)~「水和」(β酸化酵素エノイルCoAヒドラターゼ、生成物質L-β-ヒドロキシアシルCoA)~「NAD+による酸化」(β酸化酵素3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ、生成物質β-ケトアシルCoA)~「チオール開裂」(β酸化酵素β-ケトアシルCoAチオラーゼ、β-ケトアシルCoAと補酵素Aがチオール開裂を起こし2炭素分短くなった脂肪酸アシルCoAアセチルCoAを生成)~2炭素短くなった脂肪酸アシルCoAは次の「FADによる酸化」の基質となり脂肪酸アシルCoAがなくなるまでこのサイクルを繰り返します。FADについて、酵素の触媒活性に必要なタンパク質以外の化学物質を意味する補因子(タンパク質以外の有機分子であり、酵素と緩く結合し、酵素反応の通常の段階では解離されている「補酵素」(コエンザイム)とタンパク質の一部を構成しており常時酵素と結合している「補欠分子族」に大別されます。補因子は「補助分子」または「イオン」と考えられており、生化学的な変化を補助しますが、H2Oや細胞内に豊富に存在するカルシウムCaやナトリウムNaなどは補因子とはみなされません。)であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)には二種の酸化還元状態が存在し、この二種の間で変化し、FADは還元されることで2原子の水素H2を受容してFADH2となり、FADH2は酸化されることで水素を失いFADとなります。FADH2エネルギーキャリアであり、FADH2はミトコンドリアでの酸化的リン酸化の基質として使われます。FADH2が酸化されてFADとなる場合、ATP2分子を生じます。NAD+については、電子伝達体であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)は様々な脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型(NAD+)および還元型(NADH2)の二つの状態を取ります。NADと記載される場合はNAD+を指し、またNADH2をNADHと記載する場合もあります。NAD+を構成するアデノシンの-OH基がリン酸基に置換されるとNADP+となります。NAD+は生物の主な酸化還元反応の多くにおいて必須成分補酵素であり、好気呼吸酸化的リン酸化の中心的な役割を担っています。解糖系およびTCA回路(クエン酸回路)より糖あるいは脂肪酸の酸化によって還元物質NADH2が得られます。β酸化は最終産物として大量のアセチルCoAを生産しますが、アセチルCoAは様々な代謝系に用いられる汎用性に富んだ物質であり、アセチルCoAの担う反応には次のようなものがあります。TCA回路(クエン酸回路)への組み入れ・アルコール発酵(エタノール、ブタノール、イソプロパノールなど)・酪酸発酵・酢酸発酵・脂肪酸再合成・テルペノイド、カロテノイド、ステロイドの合成などです。このうち、主要代謝系がTCA回路(クエン酸回路)への組み入れであり、パルミチン酸C16:0の1分子が、TCA回路(クエン酸回路)、電子伝達系と酸化的リン酸化を経て完全酸化されることにより、ATP130分子が合成されます。グルコースの完全酸化では38分子程度ですので、脂肪酸モル辺りのATP合成量が糖などより非常に多いことが判ります。ミトコンドリアのマトリックスで生成されたアセチルCoAは上述のようにTCA回路(クエン酸回路)でエネルギーに変換されます。骨格筋の筋繊維(筋芽細胞の融合によって生じる細長く大きな巨大多核細胞)の一つである速筋線維はミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが比較的多いので白く見え、糖分解により乳酸ができやすいことが判っています。乳酸性閾値から上の運動強度では速筋線維が多く使われるようになります。遅筋線維や心筋はミトコンドリアが多いので赤く見え、乳酸を作るよりは乳酸を外から取り込んでエネルギー源として使っているといえます。運動強度が低い場合は遅筋線維が主として働いており、つまり速筋線維のグリコーゲンが乳酸を介して遅筋線維や心筋のミトコンドリアで使われているのです。このように乳酸の代謝では細胞膜を通過して他の細胞に乳酸が輸送される必要があります。この乳酸の輸送は乳酸だけではなくピルビン酸などの輸送にも関わることからモノカルボン酸輸送担体(MCT)と呼ばれています。ある条件下では、膜間腔のプロトンはATP合成に関与することなく、促進拡散によってマトリックスに戻ることがあります。これは「プロトンのリーク」とか「ミトコンドリアの脱共役」と呼ばれ、蓄積されていた電気化学ポテンシャルは熱として解放されることになります。これはサーモゲニンをはじめとする一群のプロトンチャネル(脱共役タンパク質UCP)が媒介しており、非ふるえ熱産生に関わっているといわれています。サーモゲニンは若齢や冬眠中の哺乳類に見られる褐色脂肪組織のミトコンドリアに存在しています。DNA損傷などのストレスは、アポトーシス誘導分子p53遺伝子やアポトーシスを調節するBcl-2ファミリータンパク質を介して、ミトコンドリアの膜電位を変化させ、その結果、ミトコンドリアからシトクロムcが漏出し、アポトーシスへとつながります。シトクロムcは、細胞質に存在するApaf-1やカスパーゼ-9と結合して、アポトソームと呼ばれる集合体を形成し、これによって活性化されたカスパーゼ-9が、下流のエフェクターを活性化していきます。細胞中のカルシウム濃度は様々な機構によって制御されており、細胞中の情報伝達に重要な役割を果たしています。ミトコンドリアは一過的なカルシウム貯蔵能があり、細胞におけるカルシウム濃度の恒常性に貢献しています。ミトコンドリアは迅速にカルシウムを取り込むことができ、それを後々放出することで、カルシウム濃度の緩衝作用を果たしています。カルシウムの貯蔵場所としては小胞体が最も顕著であり、この点に関して小胞体とミトコンドリアは協調しているといえます。カルシウムは内膜にあるカルシウム輸送体によりマトリックスへ取り込まれますが、これはミトコンドリアの膜電位に依存しています。逆にカルシウムの放出は、ナトリウム・カルシウム対向輸送か、もしくはカルシウム依存性カルシウム放出系によって行われます。これによって受容体が情報伝達物質に結合して産出される別の情報伝達物質であるセカンドメッセンジャー系が起動され、神経伝達物質ホルモンの放出が行われます。ミトコンドリア中にはDNA(mtDNA)が存在しており、ここに細胞核のものとは異なる独自の遺伝情報を持っています。通常はGC含量が低く(20~40%)、基本的なゲノムのサイズは数十kb程度のDNAであり、電子伝達系に関わるタンパク質、リボソームRNAやtRNAなど数十種類の遺伝子がありますが、しかしDNA分子の大きさや形状、コードされている遺伝子の数や種類などは、生物によって大きく異なっています。ヒトを含む脊椎動物のmtDNAは真核生物の中ではかなり特殊な性質を多く持っており、研究はよく進んでいるものの未だ一般化には至っていません。ヒトを含む多細胞動物のmtDNAはいずれも比較的似通っており、大きさ16 kb前後の単一の環状DNAで構成されています。遺伝子は37あり、その内訳は、呼吸鎖複合体とATP合成酵素のサブユニットが13、tRNAが22、rRNAが2となっています。遺伝子地図などではmtDNAが環状に表現されることが多いのですが、しかし物理的に環状のmtDNAを持つ生物はごく一部に限られ、多くの生物では環状の基本構造から宇宙船の折り畳まれた太陽光パネルを引き出すかのように連続的に複製されており、その結果mtDNAの大部分は基本単位が何度も繰り返す線状反復構造になっています。ミトコンドリア遺伝子(ミトコンドリアゲノム)はαプロテオバクテリアから受け継がれたものであり、その遺伝子発現は細菌と共通した特徴を持っています。複数の遺伝子がまとめて転写され、それが遺伝子ごとに切断されポリアデニル化されて成熟mRNAとなること、翻訳の開始にフォルミル化メチオニンが利用されること、細胞核に存在するようなスプライソソーム型のイントロンが存在しないことなどがその根拠として挙げられます。ミトコンドリアの遺伝暗号表は、細胞核や一般の原核生物で利用されている普遍暗号表と比べて若干の差があり、顕著な例として通常では終止コドンであるはずのUGAがトリプトファンをコードしている場合が多いことが挙げられますが、しかし、例外も多くあり様々な生物で少しずつ異なる暗号表を用いていることが窺われます。またミトコンドリアではしばしばRNA編集が行われており、たとえば高等植物のミトコンドリアでは、DNA配列上のCGGがmRNAではUGGと編集されてトリプトファンをコードするという例が知られています。ミトコンドリアの機能に関わる全ての遺伝子がミトコンドリアゲノムに存在しているわけではなく、ミトコンドリアゲノムは細菌のゲノムと比べると遺伝子数が極端に減少しており、一方で大多数の遺伝子は細胞核にコードされ遺伝子産物がミトコンドリアへと輸送されます。これは進化の過程で遺伝子が細胞核へ移動したからだと考えられており、こうした現象は比較的よくあった事象だとも考えられており、またミトコンドリアには呼吸機能に関与する疎水性のタンパク質が存在し、これらをミトコンドリアの内部で作らざるを得ないのがミトコンドリアに遺伝子が残っている理由の一つとも考えられています。一つのミトコンドリアには2〜10コピーのDNA分子が存在します。その全てが完全に同じ情報を持つわけではなく、複数の異質のDNA分子を含んでいることも確認されています。1980年代にはミトコンドリアのαプロテオバクテリア起源は受け入れられるようになり、現在では真核生物のミトコンドリアの起源は単一であるとされています。αプロテオバクテリアは非常に多様な細菌を含む分類群であり、その中でどのような細菌がミトコンドリアの起源となったかについては長く議論が続いており、初期には脱窒細菌や光合成細菌が起源だと考えられていましたが、シャペロニンHsp60(GroEL)を用いた系統解析によりリケッチアが最も近縁であることが示されてからは、これが有力説となっています。リケッチアは、細胞内寄生体であること、TCA回路を持ち好気呼吸ができるが解糖系を持たないこと、細胞膜にADP/ATP輸送体を持っていること、ゲノムが小さくAT含量が高いことなどミトコンドリアと共通した特徴を持っています。1998年に発疹チフスリケッチアのゲノムが解読され、祖先的とされるReclinomonas americanaのミトコンドリアゲノムと共通している遺伝子や、配置順が保存された遺伝子群などが見い出され解析されています。その多くはミトコンドリアがリケッチアに近縁であるという仮説を支持するものでしたが、ADP/ATP輸送体については予想に反して起源を異にしていることが示されています。20世紀末から21世紀初頭にかけて、世界中の海洋には自由生活性で浮遊性の細菌ペラジバクターが存在していることが明らかとなっています。ペラジバクターはリケッチア目の中でも最も祖先的な位置から派生する生物であり、ミトコンドリアの起源をペラジバクターとその他一般的なリケッチアとの間に求めることができることが示されています。上記のようなミトコンドリアの特徴は、動物、植物、菌類にほぼ共通でありますが、それ以外の原生動物では、若干異なった形のものがあります。1955年、体細胞が長期間低酸素状態に晒されると呼吸障害を引き起こし、通常酸素濃度環境下に戻しても大半の細胞が変性や壊死を起こし、ごく一部の細胞が酸素呼吸に代わるエネルギー生成経路を昂進させて生存する細胞が癌細胞となる説が発表されました。この説では、酸素呼吸よりも発酵(解糖系)によるエネルギー産生に依存するものは下等動物や胎生期の未熟な細胞が一般的であり、体細胞が酸素呼吸によらず発酵に依存することで細胞が退化し癌細胞が発生するとしています。がんの発生とmtDNAの突然変異の関与は古くから指摘されてきました。2008年筑波大学の研究室が、がんの転移能獲得という悪性化にミトコンドリアが関与していることをマウス肺がん細胞の細胞質移植による細胞雑種の比較により、mtDNAの特殊な病原性突然変異によってがん細胞の転移能獲得の原因になることを発見し、ヒトのがん細胞株でもmtDNAの突然変異ががん細胞の転移能を誘導しえることを明らかにし、少なくともmtDNAがATP合成以外の生命現象にも関与するとを示しました。また、同研究室によるとmtDNAの突然変異には活性酸素種(ROS)の介在が重要であり、ROSを除去すれば転移能の抑制が可能ではないかとしています。がんの転移能の獲得メカニズムは複雑であり、様々な要因が考えられていますが、これはその要因の一つであることは否定できません。

液胞(Vacuole):主に植物細胞で発達している小胞で、内部はほとんど水で満たされています。主な役割として、ブドウ糖のような代謝産物の貯蔵、無機塩類のようなイオンを用いた浸透圧の調節・リゾチームを初めとした分解酵素による不用物の細胞内消化、不用物の貯蔵があります。液胞は、細胞内にある液胞膜と呼ばれる膜につつまれた構造であり、その内容物を細胞液と呼びます。若い細胞では小さく、細胞の成長につれて成長する過程で排出された老廃物をため込むため次第に大きくなります。良く育った細胞では、多くの場合、細胞の中央の大きな部分を液胞が占めています。植物細胞を見ると、往々にして葉緑体が細胞の表面に張り付いたように並んでいるのは、内部を液胞が占めているためでもあります。蜜柑などの酸味や花の色は、この液胞中にある色素(アントシアンなど)に由来しています。

細胞質基質(Cytosol):細胞質から細胞小器官を除いた部分を細胞質基質といい、細胞質ゾル、サイトゾル、シトソールまたは細胞礎質とも呼ばれます。細胞の微細な構造が理解されていなかった当時、細胞質基質と細胞小器官のうち細胞核を除いた領域を合わせて「細胞質」といい、細胞膜で囲まれた領域を「原形質」、そのうち細胞核を除いた領域を細胞質と呼ぶ時期もありましたが、現在では細胞質および原形質という用語があえて用いられることは多くはありません。基本的には水を溶媒とし、酵素タンパク質をおもな分散質とし(20〜30%のタンパク質を含みます。)、アミノ酸、脂肪酸などの各種有機酸、糖、核酸塩基、各種タンパク質を溶質あるいは低分子分散質として含む複雑なコロイドをなしています。細胞内部の流体として(主に細胞骨格の働きにより)原形質流動を起こし、細胞内の各種物質の移動、細胞内小器官の配置、細胞間で伝達される信号の細胞内での転送の場となっています。真核細胞では特定の機能に特化した細胞内小器官が大規模な反応の舞台となっているため、細胞質基質はどちらかといえば細胞の基礎的な代謝機能の場となっているといえます。

リソソーム(Lysosome):リソゾーム、ライソソーム、ライソゾームまたは水解小体とも呼ばれます。生体膜につつまれた構造体で細胞内消化の場であり、内部に加水分解酵素を持ち、細胞が細胞外物質を細胞内に取り込む過程の一つであるエンドサイトーシスや真核生物に見られる自食とも呼ばれる機構であるオートファジーによって膜内に取り込まれた生体高分子はここで加水分解されます。分解された物質のうち有用なものは、細胞質に吸収されます。不用物は細胞が細胞内の物質を細胞外へ送り出す過程の一つであるエキソサイトーシスによって細胞外に廃棄されるか、残余小体として細胞内に留まります。

中心体(Centriole):微小管形成中心(MTOC)とも呼ばれる中心体はごく短い微小管から構成されており、長さ0.4 μm、9対の三連微小管が環状に配置した中心小体あるいは中心子と呼ばれるものが2個一組、相互に直角対向しL字形に配置しています。また、中心小体の周辺には明瞭ではありませんが、光学的には明るくみえる中心体マトリックスと呼ばれる球状の構造が認められます。中心体マトリックスには、γ-チューブリン環を含む中心体に特異的なタンパク質が含まれており、中心体の微小管形成中心としての機能を司る構造としては、中心小体より重要な部分と考えられています。通常、中心体は核の近辺に配置されており、中心小体は細胞分裂に先立ってS期頃に複製され計四つになり、細胞分裂期に入ると、それぞれ二つの中心小体からなる中心体が細胞の両極に移動します。その際、各々の中心小体あるいは中心体は、細胞分裂の際に認められる星状体および紡錘体の極となります。微小管は、その-端を中心体に置き、重合の場である+端を細胞内の様々な領域に伸ばすことが多く見られます。微小管の重合・伸長を抑制する脱重合剤を用いて細胞を処理し、一旦微小管を消失させた後、この脱重合剤を除去すると、新しい微小管は中心体から伸長して星状体を形成した後、さらに伸長を続け、細胞全域と広がっていく様子が観察されることから、中心体が微小管形成中心として働いていることが確認されています。なお、植物細胞においては中心体の存在が認められず、微小管形成中心は細胞内に分散する多数の極性中心として認められるに過ぎません。

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